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フィギュア業界の情勢

最近色々な問屋さん等に話を聞くと、必ず言われるのが
「フィギュアは売れなくなった」と言う事。

特に「今、美少女は売れない」と言う様な話をよく聞く。

もしこれを読んでいる人が今後問屋さん等と仲良くなって
最近どうですか?などと話を振ればやはり「フィギュアは売れないねぇ」と言われると思う。


それぐらいあからさまに、この業界ではフィギュアは売れなくなった(売れていない)
と言う認識が広まっている。


しかし、


同様に業界関係のあちこちの情報を総合すると、明らかに
フィギュアの販売数は増加している。


語弊があると思うので、補足すると、
年間のフィギュア全体の累計数ではほとんど変わらないか、ある程度減少傾向にある
可能性は実際ある(リアルな全体数字を出す事が難しいので断言は出来ない)

が、個々の販売数の最大数値と言う意味では、確実に上限が上がっている。


これは古い時代のデータで、もう数年以上前の話だけど
自分が昔メーカーに勤めていた頃、大体平均して2000個前後。
かなり良い(評価が高い)商品で4000~5000個の間ぐらい。
いささかイレギュラーな商品でも8000個と言った所だった。
(再販があるので、最終販売数はもう少しあると思うけれど)


さて昨今、フィギュアの値段は上がりに上がっている
初めて完成品フィギュアが出回りだした頃は定価で3000円代、
少し良い値段でも4000円~5000円の間で、さらにそこから値引きが有った。

今では1/8程度のスケールでも7000~8000円であったり、
大きいフィギュアが増えてきているのでほぼ1万円、あるいはそれ以上の価格の物が多くなっている。

造型やギミックに求められる水準も上がっているため、単純な比較は出来ないとしても
1.5倍~2倍程に値段が上がっている。


にも、関わらず


近年、5000個、6000個、あるいは万単位の販売数を記録している美少女フィギュアが散見される。
(万単位の物はイレギュラー枠だろうが)

販売価格が極端に上がっている事や、インフレどころかデフレまっしぐらな国内の経済状況を考慮すれば
当時の基準で言うと販売数は3~4倍にもなっていると考えられる。


そしてこれはさほど異常な事でも、予想外な事でもない

それはオタク文化の市場と認知の拡大だ。
熱血系のロボットアニメや、玩具の販促用の番組はかなり少なくなったが
所謂萌え系の作品については、毎年毎年とても個人では追いきれない程の数が放送されている。
市場がもたらず経済的影響力を無視しえなくなったマスコミも一部ではパッシングしつつ
また一部では今、オタク市場が凄い!と言う様な特番を定期的に持ち上げてくる。

自分達の世代は幼少時にはそれこそガンダムやヤマトのブームの後で
アニメと言ったらロボット物や、子供向けの微笑ましい物、縁日でお面が作られるような物しかなかった。

しかし今の若い世代は、自分達の世代では考えられなかった美麗な映像・動画を見て
セクシーに過ぎるのではないかと言う様な女性的な魅力にあふれたキャラクターを見る機会が多くなっている。

そしてもちろん、自分達の時代はガンプラや合体変形するロボットの大型玩具ばかりだったが、
今はデパートにも美少女フィギュアが並んでいる時代だ。

その世代が大きくなり、アルバイトや仕事について趣味にお金を使えるようになってくると
自分達の時代と比べて、フィギュア等を買う習慣がついている層が多いのは当然だろう。

確実に美少女のファンと言うのは、少なくとも数年前に比べて拡大傾向にあるのだ。
そして当然それはフィギュアの販売数に直結する。


では何故、こうまで口をそろえて皆「売れなくなった」とこぼすのだろうか。


それは、売れる数の変化と言うより、売れ方の変化なのだと思う。

例えば、4種類のフィギュアが販売され、数年前なら

2000個、3000個、2500個、2500個

と言う風に売れていた物が、今ではこんな具合だ

500個,6000個,1000個,2500個


どちらも総数は10000個。しかし売れ方には明らかに偏りがある。
特に、昨今は下限の限界突破が著しい。
以前はどんなにフィギュアの完成度がいまいちだったとしても、800個を割る事はそうそう無かったが
今は本当に、300とか400個等と言う、関係者なら数字を聞いただけで病気になりそうな数が
事実として出て来るようになってきている。

この数字は、メーカーなら直ちに部門を縮小して事業転換を考えるか
資金繰りに頭を悩ませ、下手をすれば倒産と言う言葉が頭をよぎる数字だ。

問屋等にしても、このクラスの商品だと一度の取り扱いで出せる利益は
せいぜい数十万(当然一つの問屋が全ての数を賄うわけではないので全出荷数の数分の一の取り扱い)
にしかならない。社員1,2名の月々の給料が払えるかどうか、と言う程度だ。


このクラスの数字が生み出すマイナスのインパクトは、日常類を見ない巨大さだ。
消費者視点ではさほどピンとこないかも知れないけれど、PVCフィギュアを作るには
必ず金型を用いるのだが、この金型代はかなり大きく、勿論それ以外に諸経費がかかる
この金額はフィギュアを数百個販売したぐらいでは、全く回収出来ない。


さて、先ほど、

500個,6000個,1000個,2500個

と言う内訳を例として出したが、これは一つのメーカーの商品とは限らない。
つまり、あるメーカーでは、出す商品出す商品が

500個,500個,500個,500個...


と言う様な事にもなっている。
全身から血を吹きだしながら針の山を全力疾走する様なものだ。

このメーカーで、かつては平均が1000個だった時期も有るかも知れない。
そういう意味では、確かにフィギュアは売れなくなっているのだろう。
このメーカーでは。

一方で、かつては平均2000個だったメーカーが

3000個,5000個,1500個,2000個...

と言う風に数量を伸ばしている例も確かに存在する。

さらにもう一つ補足するなら、この様に販売数を伸ばしているメーカーでも
何回かに一回は、1000個を割る様な販売数になってしまう事もある。
一方で、時々は万を超える事もある。


つまり、どういう事か?

勿体ぶる程でも無い単純な話で、ここ近年の状況を見て分かる事は、
消費者が商品を吟味し、選ぶ様になったと言う事だ。
(昔から勿論その傾向は有ったが、それが顕著になった)


昔はあまり細かいクオリティについて含蓄が無かったため、
好きなキャラクターのフィギュアなら何となく買っていた層も、
目が肥え、真贋が分かるようになってくると、単に好きなキャラだからと言って買ったりはしない。
まして、今は複数のメーカーが同じキャラクターを出す事も少なくない。

出来の悪いフィギュアを買うぐらいなら、別のメーカーがもっと良い物を作るのを待とう、
あるいはどんなメーカーでも良い物が出ない限りは買わない、と言う判断もされる様になった。

これは不況の影響も勿論あるだろうが(また、フィギュアコレクターはスペースの確保に限界がある)、
やはり一番大きいのは消費者の意識、目線の高さが変わってきたと言う事だろう。
(もう一つ補足すると、メーカー・商品の種類が増大していちいち全部買ってられないと言う事もある

今までは許されて来た事が、許されなくなってきていると言う事だ。


数が減って平均500個になってしまったメーカーと、数が減っていない、あるいは増えているメーカーの
違いは、この消費者の意識(ニーズ)の変化に対応しているかどうかと言う違いだ。

漫然と同じ事を繰り返していれば、売れなくもなるだろう。
一方、求められている水準に達するよう、精度を上げ、工夫を凝らし、変化を加えているメーカーは
必ずしも右肩下がりにはならないと言う事だ。

さらに、それほど状況が悪くないメーカーも油断は大敵である。
少し油断して、練りこみが甘い商品を出せば、どんなに有名で大手で、過去の商品実績に
信頼がおかれているメーカーでも、販売数は簡単に1000を割ってしまう。


今は単に原型が上手い、量産クオリティが高い、と言うだけでは満足されない。
(当然、これらの要素は最低限備えているべき)

その商品のターゲットとなる顧客は、何を求めているのか?それを満たすにはどうするべきか?
ベストのタイミングはいつか?許容される価格は?外してはいけない仕様は?

こう言った事を的確に把握・判断し、企画を立て、実行出来る能力が求められるのだ。

上記のような、顧客のニーズを把握し、対応すると言う事は
企業としては至極当然、当たり前の前提ではあるはずだが、こう言った方面に関して
この業界に存在するメーカーはすこぶる意識が低い。


とは言え、こう言った状況は消費者にとって必ずしも悪い事ではないかも知れない。
競争がより激しく、致命的になってきたと言う事は、良い物を作らない者は淘汰され
残されるのは百戦錬磨の本物のサービスを提供する者たちになる、可能性があるからだ。
(残った強い者が必ずしもユーザーフレンドリーとは限らないが)

メーカーにとっても、当たり前に求められる事を当たり前にクリアしていけば良いと言うだけで
何をどう努力しても全く評価されない、報われないと言う状況では決してない。
(実際努力しているのに上手く行かないぞ!と言う所は、きっと何かを勘違いしている)


自分は、この様な決して楽ではない、厳しい競争状態になっている事は
むしろフィギュア業界の正常化につながると考えている。

消費者と言う者は、どこまでも貪欲に、自分の利のため、ワガママになっても良い。
そしてメーカーは、それに応えるためにどこまでもサービスを追及するべきだろう。
(マナーや人間性を度外視しても良いと言う意味ではない)

そう言った健全な精神、健全な経営こそがWin-Winの関係を生み
それぞれに取って最良の将来に繋がる道だと思う。

「売れなくなった」それは良い、事実ではあるだろう。
ではその事実を踏まえ「この先、どうするのか?」この発想・判断をより早くした者が
この先生き残っていくのだと思う。

フィギュア業界の将来は、決して暗くない。





・ついでに

フィギュアの価格高騰について、原材料費や中国工員の人件費増大と言うのも
勿論直接の原因だが、上記の話を踏まえて考えて欲しい。

1000個、1000個、1500個、時々3000個と売っていて、好調と判断、
事業を拡大し、人員を増やし、その結果として販売管理費を増大させた企業がある時期から

500個、500個...となったとしたら、どうなるだろう?


平均1000以上の状態が続くと言う前提で行った投資。
普通それは将来の利益で相殺していく前提で行っているので
その将来の利益が保証されなくなったらどうだろう?

そもそも、根本的に投資以外での負債もまあ、有るのが普通だろう。

しかし事実として販売数量は平均500に近づいている。
次のアイテムは1000売れる?真っ当な経営者ならこれは1000売れるんじゃないか?と言う期待が有っても
500、500で続いていれば希望的な観測は行わないだろう。
しかし事業停止、倒産の道は選びたくない(選べるものではない)

するとどうするか?500個しか売れなかったとしても1000個売れた時と同じ利益が
得られる設定にすれば良い。つまり値段を上げるのだ。

かくして商品の販売価格は上昇するわけだが、これはクオリティがアップしたわけではない。
単にメーカーの財布が寂しいので高くしただけだ。顧客にとっては全く益が無い(直接的には)

その結果、当然に引き起こされる状況が、販売数の低迷である。
全く同じクオリティの物を、単に高くしたら当然そうなる。当たり前の事なのだ。
しつこい様だが、当然なのだ。そうしなければ仕方ないじゃないか、それはそうかも知れないが
販売数量が落ちるのも同様に仕方ないのだ。何故かこの事の責任を他に求める者が存在するが
市場が落ち込んでいるのでも消費者の要求が高すぎるのでも無い、単に
売れないからと言う理由で値段を上げた事に対する当然の報いなのだ。


脱線したが、その様な理由で商品の販売価格は上昇する。
商品のクオリティと比例しない各上昇は販売数量の低下を招く。
販売数量が減ると、また値段を上げる。減る。また上げる。

この流れのまま突き進むと最後にはどうなるか、当事者は聞きたくもないだろうし
言わなくても分かる事だろうから明記はしないが、まあ避けたい道だろう。

幸い(でもないだろうが)、市場の状況は、無暗な乱発を求めてはいない。
今後メーカー側は、人員を最小限に絞り(勿論会社を最も圧迫するのは人件費だ)
それも、実力者、実績を持った人間に絞っての組織再編、
そして企画内容を突き詰め、年間の企画数を減らしてでも、個々の精度を高める事が
今後の必須懸案となるだろう。

これは、自分が何を言わなくても、今後自然とそうなる現象である。
メーカーで働く人間は、今後リストラや、会社自体の倒産リスクとも戦う事になるだろう。
それを予測し、上手く立ち回らなくてはならない。

そうしなければ、最終的には職を失うだろう。
フィギュア業界で10年20年、と言う人間のドロップアウトは悲惨だ。
この業界は(言うほど他の業界を知ってるわけではないが)、退職者が結構多い。
しかし退職した人間はほぼ必ず同業他社を目指す。
他業種に活かせるような経験がほとんどないからだ。自然そうなる。

今はまだ、交換が続く次期だ。メーカー側にその意識が有るにせよ無いにせよ、
より良い人員を求めて募集を続けるだろう。それに乗れば転職成功だ。

しかしやがてメーカーは人員を増やす事を止めるだろう。
それよりは厳選し、絞りにかかる。最終的にはめったに募集はかけない様になるだろう。
せいぜい新卒者で見込みが有りそうな人間の育成に力を入れるぐらいだ。

そんな時代、齢40、50を数え、目立つ実績や立場も無いままに退職し、
同業に行く先が無い、そんな状況には誰しも立ちたくないものだ。


フィギュアの価格が上がるメカニズムと、その結果。
特に結果の方は、メーカーにとって致命の毒になり得る。
メーカーに勤める人達は、その様な間違った商品価格の設定を会社が行っていないか、
行っていたとしてその流れは是正出来るのか?出来ないとして、数年後どうなるか?等と言った事を
クレバーに見つめ、立ち回りを考えなければならない。

願わくば、業界に関わる全ての人々(メーカー、関連企業、消費者)に満足と平穏が訪れ
健全で盛況な業界へとなっていって欲しいと思う。
そしてその理想を築くのは、やはりこの業界の人間次第なのだ。
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